自由学園と企業経営

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                      自由学園と企業経営
 私は名古屋で羽根田商会という生産財、つまり工場で使う道具の専門商社を経営しています。父から経営を受け継いで10年たちましたが、社員の皆やお客様に支えられ、何とか事業を継続してきました。
ようやく経営者として、どんな会社を目指したいのかがわかってきましたが、それをイメージすればするほど、それが自由学園という組織に近いことを感じます。
私は学園を卒業後、米国への留学を経て父の会社に入りました。その後、名古屋、豊田、東京の各拠点をまわり、36歳の時に社長になりました。
もちろん、会社の経営は、経営学の授業で採りあげるケーススタディーよりも、もっと複雑で、ビジネスというより心理学、もっといえば人間学が必要で、私は勉強した知識を「捨てる」ところから始めました。一方、学園の寮生活で学んだこと、行事の運営で身に付けたこと、委員で考えたこと等々体験したことのすべては大切な財産でした。
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経営者であれば、誰もが思っています。「いい会社を作りたい」と。しかし、その「いい会社」がどんなものなのか明らかにならないと、経営は出来ません。なぜなら、社員に会社がどこに向かうのか指し示すことが出来ないからです。これに気づいてから、私も「いい会社」とはどんな会社なのかイメージするようになりました。私が考える「いい会社」とは、社員が、
仕事に意義や喜びを見出している会社
何のために働いているかをつかんでいる会社
「自分の会社だ」という意識を持っている会社
自発的に次々と難しい仕事にチャレンジする会社
困った人がいたら、手を差し伸べる仲間がいる会社
 安心して自分を表現できる会社
 皆がひとつの方向に向かって努力する会社   等々
 書いていくと限りがありませんが、いずれにしても「いい会社」とは、そこに所属する人が幸せであり、いい人生を築いている実感のある会社ではないかと思います。
 私の場合、こうして「いい会社とは?」を考える時、どうしても無意識のうちに自由学園を思い浮かべてしまいます。それは、自由学園というところが、まさにこれらのことを実現している社会だと思えるからです。
 朝5時半に起床した瞬間から、何故これをやるのかわからないことが続いていきます。すでにきれいな場所も掃除をします。そして多くの場合、そんな疑問さえ持つことなく、黙々と床を掛け声と共に拭きあげるのです。
 私たちは、これらの中に意味を見出す訓練を重ねてきました。体操会、美術展、音楽会など大きな行事があると、それこそ一生懸命に働き、達成感を何度も味わってきました。知らない間に、個人の損得よりも、全体の幸福感を最大化することの喜びの大きさを知ります。そして、その価値観の中に、人の力を超えた力の存在を確かに感じてきたと思うのです。
 企業は利潤の追求が目的といわれています。しかし、私はそれに疑問を感じます。やはり、企業はあくまでも人間が幸せになるために存在するのであって、利潤はそれを実現するために必要なひとつの道具に過ぎないと思うのです。
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 最近、わが社では、朝の掃除が当番制から自主制に変わりました。自分きれいにしたいところを選んで、早く来た人から掃除をしていきます。後から来た人は、まだやっていないところを見つけて掃除をします。サボっても誰にも何も言われません。あくまでも、自発的にやるということだけがルールになりました。汚れたまま放置される場所があるのではないかと配になりますが、知らない間に掃除の範囲も広がり、その上、当番制の時よりもきれいになりました。そして、皆の表情が明るくなりました。
朝礼も変わりました。体操をしたり、肩をもみ合ったり、握手をしたり、お互いへの関心が深まり、コミュニケーションも格段に増えました。自分たちが「仲間である」ことを強く意識するようになりました。
私の会社も、ようやく少し「いい会社」になってきました。そして、これは、経営者である私が、自分の目指す組織が自由学園のような組織であることに気づき、具体的なイメージを固めたことが一番大きいと思います。
それから、ひとつ思い出したことがあります。掃除を自主制に変える時、誰も掃除をしないことを心配しました。しかし、同時に、いざとなれば私が全部やればよいと腹をくくりました。すると、意外にも社員は早くから出てきてどんどん掃除してくれます。不思議な感じもしましたが、結局、社員もきれいな方が良いし、良い方向へ向かいたいのです。この感覚は、男子部で委員長を経験させてもらった時に体験したことでした。リーダーのあるべき姿も、自然に育まれていたのかもしれません。
息子が高等科一年にいます。彼にも学園の生活を通して、たくさんの経験をし、色々なことを感じ、考えて欲しいと思います。
私は幸い、「いい会社」の具体的なイメージを学園からいただきました。これに感謝し、さらに「いい会社」をつくるべく努力していきたいと思います。そして、これが「自由学園の手紙」としての自分の使命だと思います。
平成19年9月15日
男子部40回生 佐藤祐一 
株式会社羽根田商会http://www.haneda-shokai.co.jp

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