「明日館食堂の椅子づくり」を終えて
2017年度の木工企画として、2月10日~11日の2日間で「明日館食堂の椅子づくり」を実施しました。
準備の都合もあり、同学会ウェブサイト掲載のみの案内となりましたが、9名の参加者を得て企画を実行することができました。
本企画は、学園の新木工教室竣工に際して同学会から木工用機材を寄付したことから、年に一度は新木工教室をお借りして何らかの工作を実施したいという同学会委員会の方針によって、昨年度から始まった企画第2弾です。
今回は、講師として元遠藤楽建築創作所勤務で一級建築士でもある、女子部卒業生会の藤川さん(J69)にお願いし、フランク・ロイド・ライト氏と遠藤新氏の関係や、椅子についての事実などを含めた講義をしていただきました。
椅子の組立は、現在、学園の椅子や机など木工の講師をされている遠藤智史さん(D67)に協力いただききました。
本企画を経ていただいたお二人のコメントは以下の通りです。
藤川さん
同学会の企画「明日館食堂の椅子づくり」にあたり、建築の仕事をしている人を探しているということで、中川龍先生(D39)を通じて小林克彦さん(D46)の紹介を受けました。
椅子製作には男子部・女子部の卒業生が半々で参加されました。
作るのが好き、学園が好きという温かい空気の中で、静まりかえって夢中で製作される空間は、まさに、静中動あり、動中静ありの日常を超えたものでした。
男子部卒業生の、無駄がなく、的を射て、同志が阿吽の呼吸で進められていて、女子部の“丁寧に、話し合いを重ね”とはまた違う新鮮なものを感じました。
お忙しい中で、企画を出し、それを実行するというのは簡単なことではありませんが、“よく生きる人を育てる”という自由学園での言葉が思い出され、清々しい楽しい2日間でした。
遠藤さん
今回ライト氏弟子である遠藤新氏の椅子の製作に関わらせていただき、この小さな椅子に込められたさまざまな意匠を参加者の皆様と共有することができました。
ライト氏は、身近な素材を活かすことに高い志向を持ち、経験と知識が豊富であったと聞きます。この椅子が生まれて約100年経ったいま、地域材の活用は輸入材・輸入製品に頼る林産業界に求められている重要な課題であり、そのライト氏の姿勢にとても感銘を受けました。
時代は針葉樹をどのようにして活かしていくかという潮流ですが、本企画では改めて広葉樹の肌触りと魅力を感じ、そして身近な三富(さんとめ)産のコナラを活用したことでこの地域の関係性を築けたことから、未来に残る家具を作るということは同時にモノの背景と木と人の関わりを伝えていくことになると分かりました。
今回の企画は、今年1月2日~3日開催の明日館公開講座「遠藤新設計・明日館食堂椅子を学ぶ、作る――名作椅子の復刻に挑む」で協力いただいた武蔵野美術大学関係者から、椅子図面の利用や椅子製作キットを流用させていただくことで実現しました。
2日間の結果、9名全員がこの椅子を完成させ、満足感と共にお持ち帰りいただくことができました。
ただし、製作した椅子もキット化されており、誰もが簡単に2日間を過ごせると感じていたと思いますが、相手は木であります。
言う事を聞かない木に対して遠藤さんの持てる技術を発揮いただき、皆が木の特性を理解しつつ組立を経験することができました。
今回使用した材料は、埼玉県の三富という場所のコナラ材を利用しました。この三富は、江戸時代から循環農業が実践されている場所です。
林、畑、住居がつながった土地で、畑で利用するたくさんの腐葉土をこの林の落ち葉で作り、樹が古くなると、落ち葉が減るため伐採し、その切り株から出る新しい芽を育てるという形で、循環型農業を今も続けているということでした。
先日、学園の正門前に自由学園みらいかんが竣工しましたが、そこには私も植林活動を行った三重県海山町の木材が利用されていると聞きました。
海山での学生植林は終わってしまいましたが、これからの木工企画で学園が継続している植林活動で育てられた木材を利用させていただきたいと思います。
今後は今回のようなレプリカ作成のほか、私たち自身が学生のとき作成した椅子などや、世代の異なる先輩、後輩が作成した木工製品の歴史をまとめ、そこから新たな木工企画などを検討していきたいと考えます。
最後に、本企画は多くの方の協力によって開催に至ることができました。ご協力いただいた皆様に、改めてお礼申し上げます。
同学会本部委員 小林克彦(D46)